こんにちは。クリリンです。
「医学部に入るのは難しい」というのは言わずと知れた事実だと思いますが、「難しい」中でも東大医学部から地方医学部まで偏差値に差がありますよね。
「昔は医学部にも学閥があったけど、最近では医学部に入ってしまえさえすればどこでも変わらない。」
なんて意見もあったりしますが、現役で医学生をやらせてもらっている我々からすれば、それは真っ赤な嘘です。
- 医学部ごとにどういった違いがあるのか。
- 偏差値の違いはどこから生まれるのか。
- 受験生はどのようにして志望校を選べばいいのか。
こういった観点から、自分に最適な医学部の選び方についてお話ししていきます。
医学部選びで重要な要素
医学部の偏差値(入学難易度)は、その医学部の人気度合いを表していると言えます。すなわち、偏差値の高い医学部ほど人気な大学であるということです。
ただし、”人気”と一言で言っても、その度合いを決定づける要素はいくつかあります。ただ「人気だから」といって偏差値の高い大学を目指していてはナンセンスです。
自分の将来性・希望などを考慮して志望大学を選ぶようにしましょう。
医学部を選ぶ上で重要な要素は主に以下の5つです。
- 医学部の格付け・ヒエラルキー
- 立地の良し悪し
- 学費(私立大学の場合)
- 入試問題の出題傾向
- 学歴コンプレックス
医学部の格付け・ヒエラルキー
医学部は設立された時代が古いほど、研究面や医療業界への貢献度が大きいと評価されてきたことから格が高いとされています。
したがって、歴史が深い旧帝大や旧医科大は序列が高く、医学の世界では影響力が高いと言われています。
これがいわゆる”学閥”というもので、確かに昔ほど大きな意味合いは無くなってはいるものの、現在でもその少なからずの伝統が残っていることは否定できません。
むしろ、今の医学部の偏差値ランキングは概ねこのヒエラルキーに基づいているとすら言えてしまいます。
このヒエラルキーは、国公立私立あわせて82大学がそれぞれ下記一覧のように旧帝国大学、私立御三家、旧制医科大学、旧制医学専門学校、新設医大の順序で区分されています。
旧帝国大学 | 東京大学、京都大学、九州大学、東北大学、 北海道大学、大阪大学、名古屋大学 |
旧制医科大学 | 千葉大学、新潟大学、金沢大学、岡山大学、 長崎大学、熊本大学、京都府立医科大学 |
私立御三家 | 慶應義塾大学、東京慈恵会医科大学、日本医科大学 |
旧制医学専門学校 (国公立) | 弘前大学、群馬大学、東京医科歯科大学、 信州大学、岐阜大学、三重大学、 神戸大学、鳥取大学、広島大学、 山口大学、徳島大学、鹿児島大学、 札幌医科大学、福島県立医科大学、 横浜市立大学、名古屋市立大学、 大阪市立大学、奈良県立医科大学、 和歌山県立医科大学 |
旧制医学専門学校 (私立) | 岩手医科大学、順天堂大学、昭和大学、 東京医科大学、東京女子医科大学、 東邦大学、日本大学、 大阪医科大学、関西医科大学、久留米大学 |
新設医大(国公立) | 旭川医科大学、秋田大学、山形大学、 筑波大学、富山大学、福井大学、 山梨大学、浜松医科大学、 滋賀医科大学、島根大学、香川大学、 愛媛大学、高知大学、佐賀大学、 大分大学、宮崎大学、 琉球大学、防衛医科大学校 |
新設医大(私立) | 自治医科大学、獨協医科大学、埼玉医科大学、 北里大学、杏林大学、帝京大学、東海大学、 聖マリアンナ医科大学、金沢医科大学、 愛知医科大学、藤田医科大学、近畿大学、 兵庫医科大学、川崎医科大学、福岡大学、産業医科大学 |
2000年以降の新設医大(私立) | 東北医科薬科大学、国際医療福祉大学 |
こうしたことから、受験生も出願する大学を決める際に医学部の格付け、いわゆる大学のブランド力を重視する人が存在するほどです。
ではこのような格付けは具体的にどういった点で活きてくるのか、主に以下の2点があるでしょう。
- 格付け上位の医学部ほど就職に有利
- 教授や要職は格付け上位の医学部出身が多い
格付け上位の医学部ほど就職に有利
格付けが上位の医学部は歴史が古いため、医療業界への影響力が強いことから全国各地に豊富な関連病院を有しています。
関連病院は、他の病院よりも就職に有利になることが多いです。
テストで内定が決まる病院で少し点数が加算されたり、そもそも事前に偉い先生と知り合ってほぼ内定が確定するというような話を聞いたりもします。
病院にもよりますが、関連病院を受ける上では有利になります。
もちろん医師不足極まれる今、医師としての働き口が無いなんてことはありませんが、やはり病院によって働き方にも特徴があり、
・雰囲気
・研修中の給料
・立地の良し悪し
・研修医の教育の質
などに違いがあります。
関連病院が多いほど自分に合った就職先を選べるといった意味でも、格付け上位の医学部を目指すメリットがあると言えます。
また「人気病院(ブランド病院)に就職したい」となるとかなり倍率が高く、採用担当者が学歴に多少のこだわりを持っている場合もあります。
簡単な話、一般的な「就職」で、学歴があると就職で有利になったり、就職先の選択の幅が広がるというのと同じようなイメージ(在学中の努力次第で逆転もしうることも含めて)を持っていただければいいでしょう。
「医師になってしまえばどこも変わらない」といった意見もありますが、それは”就職先を選ばなければ”のお話です。
教授や要職は格付け上位の医学部出身が多い
教授出身者数や関連病院をはじめとした医療機関の要職に就いている医者は、やはり全国的に見ても旧帝大をはじめ格付け上位の出身の人が多いようです。
また、関連病院が多いと昇進できるポストも多いことになるため、だたの医師ではなく役職を目指したい人には好都合だと言えるでしょう。
したがって、教授や要職就任などのポジションを狙うのであれば、格付け上位の医学部を目指しておくのが吉です。
立地の良し悪し
立地の良し悪しは暮らしに直結します。
もちろん、立地が悪いよりかは立地の良い医学部の方が人気があるため、必然的に立地の良い医学部は偏差値が高くなります。
少なくとも6年間のキャンパスライフ
大学生活はキャンパスの中で勉強をするだけではありません。時には友達と遊んだり、サークル仲間や研究仲間と食事を楽しんだりすることもあるでしょう。
ただし立地の悪い大学は、周辺に居酒屋やカラオケといった娯楽施設が少ないため、思い描いていたような大学生活が楽しめない可能性があります。
それだけでなく、スーパーやコンビニも少ないため、生活面で不便と感じることも多いでしょう。
大学によっては最寄り駅からバスで1時間かかる場所もあり、車の運転ができないと行動範囲や行動時間に大きく制限がかかってしまいます。
「立地の悪い医学部は偏差値が低くなるため狙い目だ」
と思う方もいるかもしれませんが、安易な考え方で入学して後悔したという人もたくさん見受けられます。
6年間の医学部生活でですから、本当に立地にこだわらなくていいのか慎重に考える必要がありそうです。
就職先にも影響
医学部の権力は自身の大学を中心に広がっていきます。
従って、関連病院も大学の近くにあることが多く、就職も大学近くの病院で有利になることが多いです。
働きたい病院や場所が決まっているなら、そこに近い大学の医学部を目指すと良いでしょう。
例えば、千葉大学の医学部に行けば、千葉県内の医療に関する情報も大学のときから得ることができます。また、卒業後に地元で医師を目指す人も多いため、同じ大学出身の医師もいるはずです。
もちろん、就職先の病院に関しては大学での努力次第でどうにかなりますが、働きたい地域が決まっているのならその地域の大学を卒業した方が有利に研修先を決めることが出来ます。
学費(私立大学の場合)
いわずもがな国公立大学医学部は学費は一律ですが、私立大学医学部は学費が非常に高額です。
やはり学費は安い大学の方が競争率が高くなりますから、私立大学医学部の場合は、格付けの高さとともに学費の安い大学が人気および難易度・偏差値が高い傾向にあります。
以下、私立大学医学部の偏差値と学費の関係【2020年度】をまとめておきます。
慶應義塾大学 | 73.3 | 2,204万円 | 私立御三家 |
東京慈恵会医科大学 | 68.5 | 2,250万円 | 私立御三家 |
順天堂大学 | 68 | 2,080万円 | 旧制医学専門学校 |
日本医科大学 | 67.5 | 2,200万円 | 私立御三家 |
防衛医科大学校 | 66.8 | 実質無料※ | 新設医大 |
大阪医科大学 | 65.8 | 3,140万円 | 旧制医学専門学校 |
自治医科大学 | 65.3 | 実質無料※ | 新設医大 |
昭和大学 | 65.3 | 2,700万円 | 旧制医学専門学校 |
産業医科大学 | 65 | 実質1,123※ | 新設医大 |
関西医科大学 | 64.8 | 2,770万円 | 旧制医学専門学校 |
東邦大学 | 63.8 | 2,580万円 | 旧制医学専門学校 |
国際医療福祉大学 | 63.5 | 1,850万円 | 新設医大 |
日本大学 | 63.3 | 3,310万円 | 旧制医学専門学校 |
東京医科大学 | 62.8 | 2,940万円 | 旧制医学専門学校 |
近畿大学 | 62.5 | 3,582万円 | 新設医大 |
愛知医科大学 | 62 | 3,420万円 | 新設医大 |
東北医科薬科大学 | 61.5 | 3,400万円 | 新設医大 |
杏林大学 | 61.5 | 3,700万円 | 新設医大 |
東京女子医科大学 | 61.5 | 4,621万円 | 旧制医学専門学校 |
藤田医科大学 | 61.5 | 2,980万円 | 新設医大 |
久留米大学 | 61.5 | 3,620万円 | 旧制医学専門学校 |
北里大学 | 61 | 3,890万円 | 新設医大 |
帝京大学 | 61 | 3,938万円 | 新設医大 |
東海大学 | 61 | 3,500万円 | 新設医大 |
聖マリアンナ医科大学 | 61 | 3,440万円 | 新設医大 |
兵庫医科大学 | 60.8 | 3,700万円 | 新設医大 |
福岡大学 | 60.5 | 3,760万円 | 新設医大 |
岩手医科大学 | 60 | 3,400万円 | 旧制医学専門学校 |
金沢医科大学 | 60 | 3,950万円 | 新設医大 |
獨協医科大学 | 58.8 | 3,660万円 | 新設医大 |
埼玉医科大学 | 58.8 | 3,700万円 | 新設医大 |
川崎医科大学 | 56 | 4,550万円 | 新設医大 |
例えば、旧制医学専門学校の順天堂大学医学部は学費を大きく値下げたことで優秀な受験生が殺到し偏差値が急上昇。その結果、私立御三家に匹敵する難易度・偏差値を誇る医学部として今では有名です。
その後、私立大学医学部の学費値下げは各大学が追従し、学費を大きく値下げた医学部ほど偏差値が上がる風潮となっています。
6年間の学費総額2000万円前後の順天堂、昭和、東邦の3大学が偏差値を伸ばし、御三家に次ぐ「新御三家」として新たな格付けとしてメディア等で取り上げられることもあります。
それくらい私立は学費の安さが難易度に大きく影響してくるのです。
逆に、高額な学費の私立は偏差値が低いため経済的余裕があれば穴場となり得るとも言えるかもしれません。
入試問題の出題傾向
医学部選びにおいて、入試問題の出題傾向は必ず考慮に入れるべきでしょう。
ここまでの話で、
・格付けは高いほうが良い。
・立地は良いほうが良い。
・学費は安いほうが良い。
というのは当然のことですが、そもそも医学部に入学できなければ元も子もありません。
国公立医学部では共通テストも重要になりますし、私立医学部では相当細かい知識を要する大学もあります。
大切なのは、問題の難易度とともに、合格ボーダーも調べることです。
難易度の高い問題を出題してくる大学は、合格に必要な点数も低くなります。
易しめの問題で高得点を取るのが得意なのか、難しめの問題に喰らいついて得点を稼ぐのが得意なのか、自分の適性に合った出題をする大学を研究しましょう。
学歴コンプレックス
学歴コンプレックスは意外と侮れません。
ヒドイ場合は学習意欲に悪影響を及ぼしてしまうこともあります。
どの医学部でも劣等感は感じないという方はどうでもいい話かもしれませんが、同じ医療機関にいる勤務医であっても、学歴の差でコンプレックスを感じるケースは意外にも少なくありません。
事実、劣等感からか同じ医学部でより偏差値の高い大学を再受験するという人もたくさんいます。
ある程度しょうがない部分もあるかもしれませんが、自分の性格と真摯に向き合って、適切な志望校選びをするようにしましょう。
医学部選びに重要でない要素
ここまで「医学部はそれぞれで違いがある」というお話をしてきましたが、実際のところ医学部ごとで変わらない要素もあります。
誤解を防ぐため、この記事では医学部ごとの違いとともに、医学部選びに重要でない要素についてもお話ししておきます。
- 収入
- 医学研究の内容
収入
同じ病院に就職するという条件のもとでは、出身大学に依って年収に差をつけることはありません。(これが一部で「医学部はどこも変わらない」と言われている主たる所以だと思います)
医師の収入は勤務する病院によって決まります。
すなわち、医師の給料は病院の経営者によって決められており、例えば田舎の病院は給料を高くしないと就職希望者がこないなどの理由で高額給料が設定されていたりします。
先述しましたが、格付けの高い大学の方が就職に有利な病院の選択肢が広がるため、働き方を選べるという意味では違いがあります。
ただし、同じ病院で年収に差がつけられることはありませんし、どの大学でもある程度給料の高い病院を選ぶことは可能であるため、医学部を選ぶにあたって収入はそれほど気にする必要はありません。
医学研究の内容
旧帝大を始め格付け上位の医学部は昔から基礎医学の研究面でも豊富な実績があり、優秀な教授やスタッフが集まることから、研究医を目指すうえでも交付金が豊富など恵まれています。
どんな研究がしたいかまで既に決まっており、学生の内から研究に励みたい人は、それぞれの大学で力の入れられている研究内容まで考慮して志望大学を決める必要があるかもしれません。
ただし、本格的に研究医としての活動が始まるのは大学卒業後の事であり、出身大学以外の医局に属することも可能なので、今はそこまで影響するものではありません。
また、同じ診療科でも大学によってしている研究は異なり、例えば京大の肝胆膵移植外科では肝臓を脱細胞化し、レシピエントの細胞を埋め込むことによる再生医療の研究が先進的に取り組まれていますが、大学受験の段階でここまで詳細に把握することはほぼ無理だと思います。
自分の将来について明確にイメージできている人以外は、そこまで気にする必要は無いかもしれません。
強いて言えば、先端医療や難病、新薬などに関する研究は、主に国公立大学が運営する大学病院で行われているため、研究医を目指すのならば国公立の医学部を目指すべき、という程度でしょう。
まとめ
以上の記事から総じて言えることは、
「病院で自分にあった働き方をするための医学部選びをする」
ということでしょう。
もちろん、ヒエラルキー上位の大学ほど凄腕という訳でもないし、大学での努力次第でいくらでも逆転は可能です。
無駄に偏差値が高く合格難易度が上がるくらいなら、ヒエラルキーは低いけど実績が高く偏差値も手ごろな医学部を確実に合格するほうが賢明でしょう。
ただ、学歴はあって困ることはありませんし、事実、僕自身も京大医学部としての恩恵を受けたことは幾度となくあります。
なるべくヒエラルキーも高く、立地なども自分の希望に合った医学部に越したことはないでしょう。
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